科学切手といえば科学ネタを描いた切手だけではありません。科学技術を活用して作られた切手もあるのです。ここではそんなちょっと変わった切手達をご紹介します。
- 素材編 金属箔 素材編 プラスティック 加工編
金箔切手
金属箔の切手はいろいろあれど、やはり一番種類が多いのは金箔です。(値段が高く売れる分それだけ儲けも多いから?)右の切手は金箔一番切手のシュバイツァーを描いたガボンの切手。 手に持った感じも薄いのに結構重く、金の密度の高さを実感できます。初期の金属箔切手はほとんどこの切手のように凹凸をつけて(切手用語ではエンボスと言います)デザインを表現してます。
銀箔切手
金箔ほど多くは無いにしろ銀箔切手というのもあります。種類が少ないのは、希少性が金ほどには高く無い事と、酸素、硫黄やハロゲン元素等と反応しやすく変色しやすいのもその理由にあるようです。その為かこのようにパッキングされた形で売られる事が多いです。
アルミ箔切手
アルミ箔切手というのもあります。それも初めての金属箔切手として(1955年発行 二番目は十年後の1965年発行の上述のガボンの金箔切手)この切手は初期の金属箔切手としては例外的にアルミ箔上にエンボスでは無く、単色で
強引に直接印刷しております。その為、細かな印刷部分が欠けたりする事も結構あるそうです。
出典: 齊藤正巳氏著
切手が伝える化学の世界 化学に親しむはじめの一歩鉄箔&鉄微粒子切手
数は少ないですが鉄箔切手もあります。ただし金・銀・アルミのように柔らかくは無いのでエンボス加工の切手は無く、このブータンの切手(左:製鉄の歴史)のように直接印刷されています。これは世界最大の鉄鋼会社の一つUSスチール社が25μmの鉄箔を製造する事ができるようになって実現した切手で、見かけによらず当時の最先端技術がつぎ込まれています。また、箔ではありませんが、鉄の微粒子をインクに混ぜて印刷されたイタリアの切手(右:製鉄100年・イタリア製鋼会社連盟記念)というのもあります。その証拠に磁石にくっつきますw
錫(スズ)箔切手
やっと手に入れましたスズ箔切手!化学切手同好会の伊藤様ありがとうございます ボリビアでは主な輸出品であるスズの国際会議にちなんで作られました。中央に小さくSnとあるのは勿論スズの元素記号。その脇にあるでっかいマークは錬金術でのスズのマーク(惑星では木星)と言いたいところですが、思いっきりでんぐり返ってる(わざと?)のはご愛敬。 どアホな奴等(科学切手編)に持っていっても構わないレベル。(180°回転させると正解です)
紙版もあるらしいですが、これは軽く曲げると元に戻らず曲がったままなのでスズ箔の方です。(紙で裏打ちはされてますが)
素材編 プラスティック
PET切手
プラスティック切手の一番手を飾るのは皆さんもご存知のペットボトルの材質にも使われているPETの切手。 ペットボトルと同じく色んな色をつける事ができますが、基本は無色なのでPET切手を貼ると下地が透けて見えますwPETはフィルムだけでなく繊維としても使われてます。世界初の刺繍切手(スイス)の糸もPETが使われました。
アメリカでも1990年と1991年にPET切手は試験的に2種類(25cとF切手)がシアトルのFirst National Bankの自動販売機から発売されました。(透明じゃないけど) ただし、丈夫なのはいいけれど、紙のリサイクルの邪魔になるという事で、これ以降アメリカではプラスティック切手は発行されておりません。またリサイクルしたPETで作られた切手もリヒテンシュタインから登場している。これもマイクロプラスティックなどの昨今の環境問題を反映した切手といえるでしょう。
ポリウレタン切手
ポリウレタンは建材・塗料・伸縮素材等いろいろな所に使われていますが、なじみ深いところではサッカーボールの素材にも使われています。このサッカーボール切手は見た目だけでなく材質も、UEFAチャンピオンズリーグ(ヨーロッパのサッカークラブチームNo.1を決める大会)2008でボールに使用された素材と同じポリウレタンでできてます。あの反発性はポリウレタンに空気のような気体の泡を入れる(専門用語では発泡と言います)事により実現します。また、発泡ウレタンは断熱性もよい事から、家の建材にも使われています。
ポリ塩化ビニル切手
変わり種切手では有名なブータンのレコード切手。この素材は塩化ビニルなので普通のレコードと違いペラペラです。(その昔、学習雑誌の付録によく付いてた「ソノシート」と同じです。若い方はご存知無いかもしれませんが・・・)全部で7種あるそうで、ブータンの国家、歴史、観光案内等がペラペラでもちゃんと実際にも聞けます。
残念ながら私はこれ一つしか持ってませんが^^;
デデロン切手
デデロンとはこの切手を発行した旧東ドイツ(Deutsche Demokratische Republik)の略称DDRにちなんでつけられた名前で、世間一般的にはナイロンと呼ばれる化学繊維です。切手は「自由と社会主義のための化学」の小型シートでデザイン自体からも化学ぅ〜という感じがプンプンします。しわは元からあったのではなく、封筒に糊で貼った際紙との伸縮率が違って、乾いた時にその歪みで生じた物です。
なお、今でもヨーロッパの一部ではデデロンの名でも通じるようです。
つくばの怪しい研究者すぎりんさん・宮澤さん情報ありがとうございました
レーヨン切手
レーヨンは狭義にはプラスティックと違い、紙の材料になる木材パルプや綿等の天然素材(セルロース)を化学的処理(アルカリと二硫化炭素に溶かした後、酸の中で糸にする)をした再生繊維です。その為、加工処理(二硫化炭素は毒性があるので除去しないと環境に優しいとは言えない)したあと埋めると土に戻り消滅するそうです。この切手も土に埋めたら分解するかは・・・勿体なくて試せません><
開発当初はニトロセルロース(ニトロと名についてる物質は大抵燃えやすい性質があるので要注意!)を原料としていた為極めて燃えやすく、レーヨンのドレスを着た人間が火だるまになるという恐ろしい事故が頻発したので一時生産が中止された。
火だるま・・・じゃなくて
レーヨンの発明者シャルドネさん
なお、現在のレーヨンはセルロースそのものからできている物だそうなので安心して使えます。
アセテートフィルム切手
材質は酢酸セルロース。切手のテーマであるマラガ・スペイン映画祭にちなんで、1950年代以降の映画フィルムによく使われていた。(この切手も透けてます) 可燃性は低いが、湿度が高いと加水分解して劣化するのが難点。なお、それ以前は非常に燃えやすいニトロセルロースが使われていた。映画「ニュー・シネマ・パラダイス」で映写中のフィルムが燃え映画館が火事になってしまうシーンがありますが、これはニトロセルロースが加熱されて発火したものと思われる。
現在は劣化が少なく強度も高いPETフィルムが主流。ただしこれもデジタル化の波に押され、その需要量は減少してきている。
塩化ビニル・酢酸ビニル系切手
かつて変わり種切手で一世を風靡したブータンの切手(小型シート)。(最近は正道な物が多いが) 題材はブータンとは何ら関係のない、各時代の代表的な彫刻となっております。 この度念願かなって入手できました! 詳しい成分などは不明だがモロプラスティック。 エンボス加工(切手に凹凸を付ける事)も施してあり彫像が立体的になっている。この切手シール式切手としても先駆的な切手ではあるが、従来の紙切手用糊を流用する訳にもいかず新たに採用した粘着剤を使っている。ただしその経年劣化についてはあまり検討していなかったようで、裏面をみると粘着剤が劣化して汚くなってしまっているのがよく分かる。
複合材料切手
最近変わり種切手を多く出してるオーストリアからスキー板の先端を模した切手が発行されました。模したのは形だけでなく、素材もプラスティックをアルミ板で挟んだ構造になっています。これは多分世界初の本格的複合材料(異種の材料を組み合わせた素材。ただ張り合わせりゃあ良いという物ではなく、膨張など歪の差や接着性などのクリアしなければならない問題があり、それ相応の技術が必要)の切手と言えるようです。オーストリア郵政のHPには明記されていないが、このプラスティックはどうもCFRP(炭素繊維強化プラスティック)のように見えます。厚さが5mmもあるのでどうやって消印するのかは謎ですがw
CFRP:炭素繊維にプラスティックを含侵させて固めた素材。軽くて丈夫で耐久性も高いため、ゴルフのシャフト・釣り竿から飛行機・ロケットの部材まで幅広く使われている。もちろんスキー板にも使われている(最近の奴はアルミ無しのCFRPだけで作られてるのが主流の模様)この炭素繊維を作る方法についてはうちの研究所も深くかかわっています(たまには宣伝)
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