文明の基礎をになう元素
鉄は地球上に酸素・ケイ素・アルミニウムにつぎ豊富に存在する元素で、人類の歴史にとっても欠かさざる元素です。豊富だと言っても自然の状態で見つかる事は極めて稀で、歴史上はじめの金属鉄は隕石の鉄だったそうです。金属鉄鉄を熔かす温度が1539℃と高かった為、製鉄技術が広がったのは世界史でも習ったヒッタイト族(紀元前2000年頃)によるものからでした。これに比べれば大分後にはなりますが、日本でも古くからたたら吹きという製鉄技法が伝えられており、日本刀等の素材を生み出していました。
現在でもメジャーな鋳鉄を作る高炉(溶鉱炉)は15世紀末に発明され、産業革命にも大いに貢献し、現在まで改良を加えながら使われています。(左切手)
近代に入りいろいろな金属元素が発見されましたが、鉄は現代でも人類にとって最重要な地位を保ち続け、さらには他の元素を混ぜる事で多様な性質を持つ金属を生みだしその利用範囲をさらに広げています。(タングステンは硬度、モリブデンは耐熱性、ニッケルは弾性、クロムは耐酸化性を増します)
鉄の弱点といえば皆様ご存知の錆。その為、古い遺物などはボロボロな状態で発掘される事が多いです。ただし、超高純度の鉄(99.9999 %)は逆に錆は勿論、塩酸のみならず王水などの酸にもほとんど侵されないという事が近年になって判りニュースにもなりました。余談になりますが変わり種切手で有名なブータンなどは鉄で切手を作ってましたが・・・
鉄はただ硬くて便利な元素と言うだけでなく、3d軌道に電子が6つしかない為強磁性体でもあります。平たく言えば磁石によくくっつく(子供の頃、磁石を引きづりまわして砂鉄を集めて遊んでました)という事で、他にニッケル、コバルトが同じく強磁性体で周期表上では3つ並んでおり強磁性体の三兄弟をなしています。それ故に四酸化三鉄は天然に産出する磁石の代表になってます。鉄と磁石のお話は、日本古典の歌舞伎十八番の一つ「鑷(けぬき)」という題目にも登場しています。
また、鉄は人体にも必須な元素で、特に重要なのは赤血球のヘモグロビン(右切手)です。ヘモグロビンの中核には鉄(中心の赤丸)の錯体であるヘム(網目模様の奴)があり、正にこの鉄と酸素が結合したり離れたりして酸素を体中に運んでくれています。という訳で鉄が欠乏すると貧血になっちゃう訳です。ちなみにタコは鉄の代わりに銅を使って生きているそうです。
製鉄会社や鉄道会社で「鉄」ではなく繁字体の「鐡」や「金矢」の字を用いてる所があるが、これは金を失うというイメージを嫌った為だそうです。