レーザーカット切手
レーザーと言えば今ではどこにでもある光ですが、1960年に発明された光です。右の龍の切手は白い部分は穴が開いており、そこはレーザーで焼き切った所です。レーザーの指向性が高く出力も高くできる特徴を生かして始めてこのように細かい文様をカットできます。まさにレーザー利用の力技。
ホログラム切手
見る方向で見え方が違い立体的に見えるホログラムもレーザーで作られてます。
これはレーザーの波長が単一の光である性質を生かしており、レーザーの干渉光でアルミ箔に光の波長程度の周期的な凹凸を作ってホログラムにします。
(正確には、レーザーの回折光と図柄を反映した参照光を合わせて干渉縞を作り、そこに感光材料を置いて露光します。それを薄いプラスティックフィルムに転写しその表面を金属蒸着・メッキをし金型を作ります。これを加熱した薄いアルミにプレスしてホログラム箔にします)ホログラム自体はレーザー発見以前に発見(1947年)されていますが、実際の適応はレーザーを利用できるようになってから一気に広まりこのような切手の表現にも使われるようになりました。(右切手は1988年発行のホログラム一番切手)なお、コピーでは全部を再現できない為、紙幣やクレジットカードの偽造防止にも利用されています。(ホログラム切手はこのようにその加工はいささか面倒で費用がかかる為、一般的な切手よりちょいとお高めの値段で売られています)
サーモクロミズム
サーモクロミズムというと何だか難しそうですが、簡単に言ってしまえば温度で色が変わる現象です。
例えば右の切手は同じ切手で、室温では左のようなデザインですが、高温(お湯位の温度)では右のように絵が変わります。
一枚の切手で「タバコは心臓に悪いので止めましょう⇒そうしたらこんな元気になれます!」という事を表現しています。このサーモクロミズムを示すインクには、ほとんどの場合ロイコ染料という温度で分子構造が変わって色も変わる物質を使われています。
ロイコ染料は「色」によって構造は違うが、多くの場合ベンゼン環等を持ち長い共役系を形成している。正確には、ロイコ染料は低温では顕色剤とくっ付いて可視光に吸収を持つ共役系が長い分子構造に、高温では分離し共役系の途中で切れた可視光吸収の弱い無色もしくは色の薄い分子構造になるという可逆的反応をしている。(詳しくはロイコ染料で検索すれば構造式の例が見られるので納得できます)ちなみにこれが不可逆だと感熱紙になります。
サーモクロミズムを使った切手はこの他にも化学好きには二度美味しい奴もいます。
マイクロカプセル
目で見て楽しむ切手以外にも人間の五感に訴える切手があります。その一つが香り付き切手です。左の切手はその一番切手で裏糊にハッカの香り成分を練りこんだものです。香りはそのままだとすぐに蒸散してしまいますので、残念ながらもう今では香りはしません。現在の香り付き切手はマイクロカプセルに香り成分を閉じ込めてインクに入れてますので香りが長続きします。そのお陰で最近は香り付き切手も数多く発行されるようになり、チョコ、バラ、コーヒーや香水と言ったよい香りの物だけでなく、原油の匂い(黒の液滴デザイン部分)のような化学好き以外誰が喜ぶんじゃいといった切手まで出ています。
蛍光・燐光・畜光
蛍光とは光を受けて光を出す現象。
こんな説明だとよく分かりませんが、ある波長の光(励起光)を受けた(蛍光)物質が励起状態(エネルギーの高い状態)になり、もとの状態に戻る時違う波長の光を出す現象です。蛍光ペンや蛍光灯の「蛍光」がこれに当たります。当てる光が目に見えない紫外線(ブラックライト)の場合だと分かりやすいと思います。その発光が美しいだけでなく偽造防止も兼ねて、切手でもそのような蛍光物質のインクが使われる事があります。ここではイギリスの10ポンド切手を紹介します。丁度「ten pounds」と盾の部分が違う色で光っていますが、これは蛍光物質の種類が違うためです。
蛍光が励起光を当ててる間光るのに対し、燐光は励起光を止めてもしばらく光り続けます。これは発光の過程に本来は通れないルート(禁制遷移)を含むため、ゆっくりとしか発光出来ないためです。ただし、禁制過程なので熱放射などの別の過程に逃げる分が多くなり、発光効率が悪く普通の蛍光に比べると暗くしか光りません。その為、燐光が切手に使われる事は稀です。日本では1966年埼玉大宮郵便局で郵便物自動取りそろえ押印機用に試験的に7円と15円切手で使われた事がありました。(余りに暗くてほとんど発光してるのは分かりませんが^^;) その後、色検知器が実用化された為、燐光切手は極少数の発行にとどまりました。
蓄光は燐光のように発光寿命が長いが、発光効率が高い為比較的明るく光り続けます。
現在使われている蓄光材料は日本の根元特殊化学で1993年に開発された物で、事実上世界シェア100%を誇っています。(かつては放射性物質を含んだ自発光型というのもあったそうですが、完全に廃れてしまいました) 最近の蛍光灯で電源を切ってもしばらくぼんやり光っているのが正にこれです。切手の世界では、2008年にマレーシアから発行された夜行性動物の目玉が蓄光印刷の初お目見えです。
反射材切手 new
今回はエストニアから反射材を使った切手が発行されました。これはドイツに本社があるOrafol社のOraliteという製品(日本でも容易に入手可)を使っています。前述の蛍光は光を吸収してから発光、電球やLEDなどは電気エネルギーを注入して発光させる仕組み。それに対し反射材は光をそのまま返すという事をやっていますので効率もいいし電気も不要。 さらにはこの素材の反射は普通の反射(鏡とか水面とか)と違い、フィルムの中に小さなプリズムもしくはビーズを配列させており、そこを光が通る事によりもと来た方向に戻る仕掛けとなっている。(人これを再帰反射と呼ぶ)
その特性を生かし安全標識などにもよく使われているので、道路工事現場などで見た事のある人も多いはず!
IT技術とグラフェン
ポルトガルの「希望」という名の新型コロナ切手です。注目は右の方。これはNFC(Near Field Communication)タグと呼ばれる電子回路です(多重丸はアンテナで、中央の黒いのがICチップでデータの読み込み・書き込みが出来る) この切手の場合は、機種にもよりますがスマホを近づけると「伝染(Contagion)」というポルトガルの医者・作家ミゲル・トルカの詩が表示されるような仕組みがなされています。(私は未だにスマホ持ってないので試せませんが><b) NFCタグは1枚100円ぐらいで売られており、IT技術の進歩と普及には驚かされます。この切手の科学的にさらに美味しいポイントは、NFCタグの下地に2010年ノーベル物理学賞の対象物質グラフェンが用いられている事。グラフェンは炭素だけでできたハチの巣のような六角格子構造を持つ炭素原子1個分の厚さしかないシート状の物質です。 電気伝導度が驚くほど高く(銀より↑)、面内方向への強度も極めて高く(引っ張り強さも世界一!)、熱伝導も最も高いという特質を持っています。ただし、そう珍しい物では無く、鉛筆の芯の主成分の黒鉛(グラファイト)はグラフェンが積層したものです。 面内と違いグラフェン間(積層方向)の相互作用(ファンデルワールス力)は弱いので、セロファンテープにグラファイトをくっつけて引きはがすという簡単な方法でグラフェンを作る事ができます。このコロンブスの卵的な発見によりグラフェンの研究は一気に進み、ノーベル賞となりました。
残念ながらグラフェンの実用使用例はまだ少ないので、切手に使われたのにはビックリ!(何故グラフェンでなければならなかったのかは謎ですがw)
緑一色 new
スイスの「芸術促進」をシリーズテーマにしている切手で、今回は牧草地をイメージした作品だそうです。この緑色は、植物の光合成のコアとなっているクロロフィル(葉緑素)をインクに使っているとの事。(そこんとこ二重の意味で植物してます)
そのため光を当てると微妙に色が変化します。上手くスキャンできませんでしたが^^;
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