希ガスの異邦人
キセノンはイギリスのラムゼーとトラバースが1898年に液体空気の分留によって最も揮発しにくい成分として発見されました。ヘリウムやクリプトンなど(放射性元素であるラドンRnを除く)希ガス(周期表の一番右の列に属する反応性の無い元素)5種類の発見には全てラムゼーが関わっています。この功績によりラムゼーは1904年にノーベル化学賞を受賞しています。
このキセノンは空気中にはわずか0.00087%しか存在しません。名前の由来はギリシャ語の「異邦人」「見慣れない物」で、見つけ出した時の苦労が偲ばれます。存在量が少ないのであまり多くはありませんが、光源用材料として使われています。これはキセノンの発光スペクトルが明るく極めて自然光に近い為である。身近な所では自動車のヘッドライトがあるが、キセノンの高い値段のせいもあり高級車に限られています。
また、2010年のはやぶさの帰還で一躍有名になったイオン推進エンジンの推進剤にもこのキセノンが使われていました。これは加速を得る為に重い粒子で噴射の為気体でなければならなかったので、安定な希ガスで最も重いキセノンが採用されていました。(実はラドンの方が重いが放射性元素なので論外)
希ガスは基本的に不活性で反応性が無いと書いたが、キセノンくらい大きな原子になると反応性を決める外殻電子への原子核の監視の目も弱くなってくるので、実はフッ素などと非水環境下で安定な化合物を作る事が知られています。歴史的にも希ガスの中でキセノンが一番最初に化合物(1962年ヘキサフルオロ白金酸キセノン)が合成されました。(ちなみに水への溶解度なども原子番号の大きい希ガスが大きい)
左のギニア=ビサウの切手*にはそのうちの一つ4フッ化キセノン(室温で固体)が描かれています。 (なお、ラムゼーの肖像と一緒に描かれてるが彼が合成した訳ではない)*: これはエージェント切手(←CM:提供は椙山様のHyper Philatelistデス)と呼ばれる物で、海外の切手発行代行業者(エージェント)が切手を発行・販売する権利を国から買い取って商売としている。 儲ける事が目的なので、デザインもその国と全く関係のないけどとにかく売れそうな題材の切手を数多く発行。科学ネタで言うなら、アインシュタイン・マリー=キュリーとかノーベル賞などがターゲットになる事が多い。そこに深い理解や尊敬の念は特に必要ないので、大半のデザインは凡庸で、ときには「これは酷い・・・」と言うのもある。ただしバカも突き抜ける面白いので「どアホな奴等(科学切手編)」でも常連として活躍してくれます。 しかし、そんな中で稀に「えっ、そこ来たのか?!」と驚かされる左のような切手も! エージェント切手侮りがたし。