2011年は、キュリー夫人のノーベル化学賞受賞の100周年という事で、2008年12月に国連で決議された世界化学年です。 日本では公式の切手は1枚たりとも発行されませんが(同じ2011年なのに世界森林年は国土緑化と絡めて10種類もの切手が出ます)、世界各国からそれを祝しいろんな切手が計画されてます。 ここではそんな世界化学年切手たちを紹介してみます。
光合成の材料でもあり、小分子ながら近年環境問題・資源問題で注目されている二酸化炭素CO2と水H2Oの分子模型が描かれてます。 右のタブには世界化学年のロゴが入ってます。初日記念印にはフラーレンが用いられてます。
ベルギー '11.01.17発行
たまたまこの切手の耳紙には瓶のラベルに過酸化水素(H2O2)が付いていて愛嬌を振り撒いてますが、切手の図案としては象徴図なので今一つで面白くありませんが、でもシートだとなかなかナイスです。シート地の上にわらわらと人が集まってる写真がありますが、実はこれは・・・
ちなみに切手中の@は使用用途保障表示です。日本で言うなら封書を第一種郵便、葉書を第二種郵便と言う時の数字に当たります。額面が無い代わり、その数字に適合する郵便に使用できるというのを永久に保障する物です。その為、こういう切手を無額面切手もしくは永久保障切手と呼ばれています。(化学切手仲間から情報いただきました。ありがとうございました)
スイス '11.03.03発行
スイスでは、紙の上の分子でも紹介したビタミンCの分子模型が取り上げられています。1933年にスイス連邦工科大学でビタミンCの工業的合成法を完成した事に因んでるようです。表画像では分かりませんが、模型の部分がエンボス(表面から出っ張っています)加工されています。 ちなみに裏から見るとこんな→
フランス '11.03.03発行
キュリー夫人が活躍したフランスでは、やはりマリー・キュリーの実験している姿が採用されました。(当時のフランスは異国人であり女性であるマリーに決して優しくはありませんでしたが)この渋い切手、見た目は同じですが通常版とセルフ糊版があります。 なお、この図は結構有名で今まで何度か採用された事があります。
スペイン '11.02.07発行
こちらも、マリー・キュリーをデザインにしてます。 フランスの切手と比べるといささか老けて見えますが、晩年(1931年)にマドリッドを訪れた時の写真からのトリミングだそうです。なお、世界化学年のロゴがchemistryのCではなく、Qなのはスペイン語で化学をQUiMICAと書くからのようです。
インドネシア '11.03.01発行
インドネシアでは二枚の切手が発行されました。 一枚は月並みに世界化学年のロゴマークですが、もう一枚には見慣れぬ構造式が。。。これはアルトインドネシアニンCという化合物で、2000年に名前からも推察されるように、インドネシアの化学者ら(日本人も数名いたりする)が桑の一種からキサントン誘導体として抽出して分子構造を決定された物質です。 強力な抗がん剤との事です。
こういう機会に自国の成果をアピールするとはなかなか良い手だと思います。
イスラエル '11.01.04発行
入手は遅れましたが、これが最初に出た世界化学年切手。色鮮やかな紐がぐにゃぐにゃに絡まってるだけにも見えますが、これは分子の構造を簡略化して表す図で通称「リボン図」と言います。もっぱら分子が長く立体構造も複雑なタンパク質を表現する時に使われます。取り上げられてる分子はユビキチン(左)とリボソーム(右)で、どちらも2004年と2009年にそれぞれの構造と機能を解明したイスラエルの科学者がノーベル化学賞を受賞した時の対象分子で、ユビキチンはタンパク質を分解する(他にもいろいろ機能はありますが)分子、リボソームはタンパク質を構築する分子と絶妙な組み合わせです。 これまでの世界化学年切手では化学マニア一押しの切手です。
スリランカ '11.01.30発行
定番のマリーキュリーの肖像の横にはprof. M. U. S. Sultanbanaというご仁が。。。。 誰!この人?
検索してもスリランカの著名な化学者という事しか分かりませんでした。
→スリランカの科学、化学、教育および研究に重要な貢献方だそうで、セイロン化学会など種々の会長を歴任し、7つ以上の大学から名誉博士号を与えられたそうです。(化学切手同好会 伊藤様・川邉様情報ありがとうございます)その下にはスリランカで良質なサファイアが取れると言う事で、スターサファイアとその主成分の酸化アルミニウム(Al2O3)の構造図が描かれてます。が、原子の数を数えてみるとAl3O11。。。。なんかちょっと違う気がする。アモルファスだからこれでいいの?そもそもサファイアって結晶質じゃなかったっけ? 等と謎の多い一枚です。
追記: 右下にセイロン化学研究所のマークが書いてありますが、このマークはアダマンタンの構造式を模しています。ここでもちょっぴり化学しています。
赤道ギニア '11.05.03発行
赤道にないのに赤道ギニア。怪しげな切手を乱発して切手収集家の顰蹙をかっている国ですが、この切手は至ってまとも。左から化学を学ぶ子供たち、水滴で書いたH2O、フラスコ・ビーカー等の実験器具、多分科学の本と分子模型(シクロペンタジエン誘導体っぽいが、実在する分子ではないようです)
らしくはないですが、とても啓蒙的で良い出来だと思います。
マケドニア '11.04.13発行
元素周期表を背景に、合成・分留(蒸留で分離する方法)のできる実験装置。塩化カルシウム管が付いているので非水条件下での使用を想定しているようです。
でも、どうも白っぽいのでPYREX等のガラス製には見えない。何で出来た装置かは謎である。
ポルトガル '11.07.03発行
世界化学年の切手といいつつ、切手で無く葉書でアピールしている国もあります。ポルトガルもその一例、分子模型っぽい液滴に戯れる子供たちが描かれてます。(子供が触っている球体はヨーロッパを中心とした地球儀になっています)
記念印にもレトルトが三つで輪になってるマークが描かれてるポルトガル化学会も100周年のようです。目出度い事です。
なお、ポルトガル語で「化学」はスペイン語と同じくQで始まるので、印面のロゴマークも「Q」になってます。
ギリシャ '11.02.21押印
葉書も出ない場合は消印でアピールしている国もあります。ギリシャがその例、切手は2010年発行の物で世界化学年とは一切関係がありませんが、消印の中央にはギリシャ語で「世界化学年 アテネ 2011」と書いてあります。
できれば何か世界化学年にちなんだ図案でも入れてあれば見栄えがするんでしょうけどねぇ。ちょっと残念。
カナダ '11.10.03発行
うってかわって切手も消印も頑張ってる国もあります。カナダでは1986年にノーベル化学賞を受賞した自国の化学者ジョンC.ポラニーを題材に取り上げています。
ポラニーは「化学反応素過程の動力学的研究」という名目で受賞しており、切手にも右側に抽象的ですが素反応が進む様子が描かれています。
初日印はしばしば反応の中心となる炭素の電子配列を模した洒落た消印となっております。
ペルー '11.08.01発行
ペルーも頑張ってます。立派な旗(
何の旗かは知りませんが豊穣の角から溢れだす金貨を描いたペルーの国章だそうです)の
右上にはペルー化学大学のロゴ、
下には金の原子番号・原子量・元素記号・電子軌道配列、
左にはポリグリシン(タンパク質)のらせん構造、αヘリックス、
右にはマラリアの特効薬キニーネの分子構造が描かれてます。もう切手全面から化学の匂いプンプンしています。
パラグアイ '11.05.08発行
パラグアイはタブ付きのマリー・キュリー切手となっております。切手の方(左)はフランスの世界化学年の切手と同じ時の写真と思われます。(多少構図が違ってますが)
右は切手ではなくタブで、若い頃のマリーが描かれています。2011年はパラグアイの独立200周年にもあたるそうで、今年の切手にはほとんどそのロゴが付け加えられてます。
日本 '11.12.01押印
日本郵政では世界化学年切手を発行してくれなかったので、水戸千波局で世界化学年切手展を開催(12/1〜12/14)し、小型印を作って頂きました。デザインは世界化学年のロゴに日本の発見で近年注目を集めてるカーボンナノチューブを配しています。(手前味噌ではありますが^^;)カーボンナノチューブは切手にも消印にもなった事が無いので初物かつonly oneな代物となっています。フラーレン、グラフェンとノーベル賞の対象になってしまった為、ノーベル賞が遠のいてしまったので、当分はonly oneのままと思われます。
また、使用したフレーム切手には近代日本化学の始まりである、宇田川 榕菴の舎密開宗(せいみかいそう)を入れてみました。なお、宇田川 榕菴の業績は化学遺産にも登録されております。
イタリア '11.09.11発行
分子模型とビーカー・試験管・フラスコといった実験器具を配してます。
分子模型の一番上にはイソロイシン、右下にグリシンが描かれてるのは判別できますが、残りの部分は分かりません。
超分子のようにも見えますが、イソロイシン・グリシンとアミノ酸が描かれてる事から、これも生体由来の分子かもしれません。
もし何の分子かお分かりの方、この図の情報をお持ちの方、どうか教えて下さい><
ルーマニア '11.09.26発行
テルルの発見者のオーストリアの化学者・鉱物学者のフランツ・ヨーゼフ・ミュラーとテルルの原子模型が描かれています。何故ルーマニアから?と思うかもしれませんが、ルーマニアのトランシルバニアの鉱石から1782年にミュラーにより未知の金属として単離された事に由来してるようです。(追記:さらにミュラーはルーマニア生まれだそうです)
ただしラテン語で「地球」をtellusに由来するテルルの名前は、1797年ミュラーから送られた未知物質が新元素である事を証明したドイツの分析化学者クラプロートにより名付けられています。
北朝鮮 '11.07.29発行
定番のマリー・キュリー(横にRa88とあるが正確な表記では88Ra)と世界で二番目(ナイロンに遅れる事2年)の合成繊維ビニロン(切手中に構造式 発明当初の名前は合成一号)を作った李升基です。ビニロンは京都帝大での櫻田一郎らとの共同研究の産物ですが、さすがはお国柄櫻田氏らとの業績だった事は無視されているようです。なお、名前もあちらでは金日成に命名されたビナロンと呼ばれているそうです。(李升基自身は謙虚な方だったようで、在日時の新聞のインタビューに「なほ合成一号は喜多、櫻田両先生をはじめ、多くの同僚のご指導によってできたもので、決して私一人の功績ではない」と述べている)
なお、北朝鮮の品なのでこの切手も輸入禁止らしくどこの切手商でも取り扱って無いので、これは画像だけで実物は持ってません><
モーリシャス '11.09.08発行
ちょっとわざとらしさも感じられますが(試験管の液体の色等)実験をする研究者を現わしています。切手右には元素周期表となぜかH2Oが描かれており化学の雰囲気を醸し出しています。右の人は滴定に使うビュレットにビーカーから液体を入れようとしてるようですが、何の滴定かは不明。
キュラソー '11.10.11発行
こちらも実験者を題材としてますが、漫画調でコミカルなウサギが実験しています。1番目のウサギの前の分子模型が適当過ぎるだろう!とか、2番目のは実験失敗してるだろ!とか、4番目は何故に宇宙?と突っ込みどころも満載ですが、許せてしまう愛嬌があります。
ウルグアイ '11.12.09発行
鉱物を取り上げ無機化学で統一してきた小型シート。(切手単品はありません)切手内には紫水晶とメノウが描かれています。シート地には規則正しくケイ酸の構造をと言いたい所ですが、なんだかそういう風には見えません。切手にあるのが水晶なので、ダイヤモンド構造っぽいの。。。。という訳でもありません。
この構造に思い当たる節がある方は是非お教え下さい。<(_ _)>
トーゴ '11.09.28発行
ここまで来るともう段々怪しい切手になってきます。いわゆる切手で儲ける国という奴です。左切手に描かれているのはマリー・キュリー、メンデレーフ。コリ、右切手にはラボアジェ、シート地にはマリー・キュリー、ドルトン、メンデレーフと著名化学者が並んでいます。(個人的にはドルトンなど取り上げて貰ってるのは嬉しいのですが・・・)
しかし、どうにも絵の感じが好きになれません。しかも値段もそれなりする。(とてもトーゴで使う郵便の金額とは思えない)世界化学年の記述が無かったら買っていなかったでしょう。
モザンビーク '11.06.30発行
また来ました怪しい切手。(大体未だに発行日が分かりません><2012年7月31日にやっと発行日判明しました) そしてこの国の切手は意味無く八角形をしてます。二つともいろいろな時期時代でのマリー・キュリーを描いています。テーマの取り上げ方は悪くないんですが・・・ 背景などに描かれてるポロニウム以外、分子模型もマリーと何の関係もありそうに無いです。(適当過ぎ!)
しかし、やっぱり絵の感じが好きになれません。しかもやっぱり値段もそれなりする。世界化学年の記述も申し訳程度にしか書いてありません。
ギニアベサウ '11.02.10発行
またまた来ましたぼったくり切手。こいつではタイトルにもあるように鉱物を取り上げており結晶構造が描いてあり切手としてはそんなに悪くないんですが・・・
シート地に描かれてる構造式はどう見ても有機物。(途中で切れているので何の分子かは不明)
もう一枚の小型シート地に描かれているラボアジェは書いてある通り「現代化学の父」なので世界化学年には相応しいですが、切手の鉱物は元よりシート地の有機分子とは何の関係もありません。勿論、全てギニア・ビサウとは関係が希薄です。個々は良くても全体で見ればてんでばらばら意味不明です!そしてこれまた、やっぱり絵の感じが好きになれません。しかもやっぱり値段もそれなりするから困った物です。(買っちゃったケド)
ニジェール '11.?.?発行
やっと手に入ったこの切手(発行日はまだ不明)、切手にはドルトンとメンデレーフ、シート地にはマリー・キュリーとラボアジェが描かれてます。人選も妥当で、ドルトンの元素記号表が載っているのは嬉しいのですが、やっぱりこのおざなりな絵の感じが好きになれません。値段も「ぼったくり」よりはやや安目
で当落線上ですかと思われましたが切手一枚当たりで換算したら充分資格がありました。見た目も「ぼったくり」レベルです。
オランダ '11.?.?発行
最後にお口直しにオランダの切手を。
右にマリー・キュリー、左にオランダの著名化学者ファント・ホッフ(第一回のノーベル化学賞受賞 物理化学で大きな功績を上げた)が配されています。これも日本と同じくお国が世界化学年切手を発行してくれなかったから、有志で自主発行した切手。(世界化学年を知らしめたいという意気込みが感じられます) これも永久保障切手で、額面の替わりに使用用途を示す「1」が記されています。
モルドバ '11.?.?発行
モルドバの自主発行切手が入手できましたのでご報告。
マリー・キュリーのデザインが二種、世界化学年ロゴが英語表記と(多分)モルドバ語表記の各一種。この他にも世界化学年の自主発行切手は韓国、スロベニア、アメリカ、カナダ等で作られたようです。(私は持ってませんが^^;)
ブルガリア '12.11.28発行
もう無いだろうと思っていた世界化学年切手でしたが、何故か理由は不明ですが2012年になってブルガリアから発行されました。何かの間違えでは?と思って調べてみましたが、ブルガリア郵政のPress Bulletin(No30)にも2012年11月28日"International Year of Chemistry - Children's Creative Works"と明記されていました。1年遅れで発行した意図については言及されてませんでしたが。デザインはブルガリアの主産業の一つの香水・香料生産をイメージしてバラとバラ園が描かれてます。(ちなみにバラの香りのローズオキサイドの分子式が描かれた切手というのもソ連から発行されてます)左上のビーカー、フラスコ、メスリンダーが無ければ、化学の切手としては見落としてしまいそうです。