愚者の毒物
ヒ素といえば、最近の事件で毒物としてすっかり有名になってしまいましたが、ヒ素化合物は随分昔から知られており、その元素名も雄黄(Orpiment; As2S3 :左切手)のギリシャ語名に由来している。 ヒ素単体の方はマグヌス(右切手のちょっと待ったおじさん)により13世紀に単離された。
ヒ素の毒性は有機ヒ素よりも無機ヒ素の方が強く、たんぱく質の中のシステインの-SHなどに結合して酵素の機能阻害をおこすと言われている。 また無水亜ヒ酸にほとんど味がしない(試した事はありませんが・・・)ので昔から毒薬としてしばしば使われていた。 が、ヒ素は19世紀に開発されたマシューテストという検査法で容易に検出されすぐバレてしまうので、今や「愚者の毒物」と呼ばれている。
毒薬としての歴史は長く、かのナポレオン頭髪にも高濃度のヒ素の痕跡があり、ヒ素化合物毒殺されたという説もある。 また、16世紀南イタリアでは亜ヒ酸が入っていた化粧水を夫の暗殺に利用したため、多数の未亡人ができてしまったというお父様方の血の気が引いてしまう話もあった。(奥方様を大切に!) 申し添えておきますが、今の化粧水にはそんなものは入っておりません。(旦那様も大切に!) さらにヒ素毒殺の話は中国のお話水滸伝(第25、26回)の中にも登場します。 水滸伝は北宋時代(12世紀頃)のネタだが、成立したのは元の時代の事(14世紀頃)であることを考えてもその歴史の古いことが判ります。
とまあ悪いイメージばかりですが、実は半導体原料としては重要な元素で(ガリウム・ヒ素半導体)あり、密かに人様のお役に立っています。