今回の逸品

 科学切手でも、どこにも分類できないけど紹介したくなる素敵な物が結構あります。このコーナーではそんな逸品たちを公開してます。


フェルマーの最終定理
「フェルマーの最終定理」 2001.8.19 フランス発行

 ピエール・ド・フェルマー(1607〜1665)はフランスの数学者。「数論の父」とも呼ばれている。
ピタゴラスの定理
 切手にこれでもかと書かれてる数式はxn+yn=zn。この式はフェルマーの最終定理にでてくるもので、切手下部にもフランス語で書かれてますがこの式に当てはまる「nが2より大きい整数の解(x,y,zの組み合わせ)はない」というもの注*です。フェルマーは「この定理に関して私は真に驚くべき証明を見つけた」とは書き記しているが、その証明は書き残されていない。式だけ見ると一見簡単そうな問題に見えるが、360年もの間誰もこれを証明も否定もできなかった。。。(それゆえにに「最終」定理と呼ばれている)
 最終的には1995年にイギリスの数学者アンドリュー・ワイズによって証明されやっと決着がついている。

*:ちなみにnが2の場合はピタゴラスの定理(三平方の定理)に該当し、いくらでも解は存在する。その中でも最も知られているのは3と4と5の組み合わせ。自分もこの組み合わせを知った時は「なんて美しいのだろう」とちょっと感動したりもした。



「新型コロナウィルス」 2020.10.30 オーストリア発行

トイレットペーパー

 昨年から蔓延が深刻化している新型コロナウィルスですが、それに呼応して多くの国から出ている切手のネタにもなっております。(現時点でも40か国超)これもそのうちの一つですが非凡な一品となっております。着目点は3つ。
1. 素材はなんとトイレットペーパー。さすがにそれだけでは弱すぎて印刷できないのでラミネート紙で裏打ちされてます。それでも印刷しにくかったのでしょう手持ちの切手は中央やや上のcmとdmの部分が一部欠けています。紙は紙でもわざわざトイレットペーパーを使ったのは、新型コロナウィルスで買いだめが起こったのに由来しているそうです。(石油ショックの時もそうでしたが、何かあるとトイレットペーパーが買い占めされるのは理解に苦しみますが)
2. 赤ちゃん象・ネズミ・ハエ・蟻で長さの単位1m・1dm・1cm・1mmを表現しており、単位系マニアは大喜びです。ちなみにm(メートル)の頭に付いてるd(デシ)c(センチ)m(ミリ)は切手にも表記されてるように10分の1・100分の1・1000分の1を表す接頭語みたいなもので、他の単位系でも共通です。例:dl(デシリットル)mA(ミリアンペア)
3. 何でこんなのが図案になっているかというと、ソーシャルディスタンスを赤ちゃん象のサイズ=1mは取りましょうという事らしい。一般の人にもピンとくる程に赤ちゃん象がオーストリアでそんなにメジャーなのかは疑問ですが(笑)。しかし残念な点が一つ。蟻まで行っておきながら肝心かなめのウィルスのサイズの記述がない。実に惜しい!半端な数値になるかもしれないけど是非入れて欲しかった。


ジェンナーの種痘
「ジェンナーの種痘」 1999.3.2 イギリス発行

 現在新型コロナウィルスCOVID-19のワクチンが世界レベルで開発・接種が急ピッチで進められています。
 このワクチンの始まりとされるのがジェンナーの種痘です。切手には牛が描かれていますが、その模様をよく見るとジェンナーが子供に種痘をしている様子が隠れています。

 天然痘は人への感染力が強く致死率も非常に高いため、太古から死に至る病として恐れられていた。(古代エジプトのラムセス五世のミイラには天然痘特有の痘痕(あばたの一種)があり、彼が落命した紀元前1157年には猛威を振るっていた。 また独眼竜のあだ名でも知られる伊達政宗は、幼少時天然痘にかかり九死に一生を得たものの右目を失明している)
 ジェンナーは、牛痘にかかった事がある乳しぼりの女性には天然痘がかからないという事に着目し、1796年に牛痘の膿を使用人の子供に植え付けた後、天然痘を接種しても感染しなかった事を確認した。 種痘と呼ばれるこの手法は、ジェンナーが特許を取らなかった事もあり、その効果が認められるや世界的に普及した。 そのおかげで天然痘被害は激減し、1980年には根絶が宣言された。これは人類によるウィルス撲滅の最初で現在のところ唯一の例となっている。
 ワクチンの語源はラテン語の雌牛(vacca)で、ジェンナーの功績に敬意を表して名づけられたものである。



ベルヌーイと確率
「ベルヌーイと確率(チューリッヒ国際数学者会議) 1994.3.15 スイス発行

 ヤーコブ・ベルヌーイ(1654−1705)は、解析学の発展に尽くし、大数の法則を証明したスイスの数学者です。
切手にはご尊顔と共に、大数の法則の実験の試行回数が増えれば結果が本来の確率に近づいて行くイメージが数式とグラフで描かれている。

 身近な例で言えば、宝くじやチンチロリンなど技量とかかわりが無い賭け事では、一度大当たりで儲かったからと言って続けていると結局赤字に転落してゆくという事。夢が無いと言われるかもしれないが、賭け事は引き際が肝心である。

これまた嶋根様に情報いただきました。数学ネタではお世話になっております <(_ _)>


イデアル素
「リヒャルト・デーデキント」 1981.5.5 東ドイツ発行

 リヒャルト・デーデキント(1831-1916)は代数的整数論などの分野で様々な功績を残した数学者です。

ところで、中学の数学に出てきた、素因数分解って覚えてますか?
 整数は素数の積にただ1通りに分解されます。
  (例.60=2×2×3×5 のように)
 ところが実数の範囲だと、何通りにも分解できます。
  (例.10=2×5=(4+√6)×(4−√6) のように)

デーデキントはここで、ただ1通りに分解される、イデアルという概念を生み出した。
切手に描かれた数式は、イデアルの素イデアルへの分解はただ1通りであることを表しています。
(P1,P2,P3,...はイデアルaの素イデアル、e1,e2,e3...は各素イデアルかかるべき乗数。 60 = 22×31×51と同類の表記)
FB仲間の嶋根様に教えていただきました。ありがとうございました。


エンタープライズクルー+1
「スタートレック50周年」 1966.9.8放送開始


 サイエンスはScienceでもScience Fiction(SF)のお話し。今回はその中でもスタートレック(日本では宇宙大作戦)!(私はスターウォーズよりこっちの方が好きです)
 2016年で放送開始50周年と言う事で世界各国からピンキリの切手が多数発行されましたが、今回紹介するのは正統派のカナダとアメリカ。

著作権の問題か?  アメリカはスタートレック生誕の地としてもなぜにカナダと思われるかも知れませんが、カーク提督(1段目)役のウィリアム・シャトナーさんがカナダ人だったお陰のようです。(カークの無茶な要求も必ずクリアするスーパー機関主任チャーリー(4段目)の役者さんもカナダ人)
 カナダの切手は豪勢なラインナップで右の登場人物揃い踏みの切手だけで無く、USSエンタープライズとクリンゴン船(多分クティンガ級)の切手、お馴染みの「転送シーン」のレティンキュラー(見る角度で絵が変わり動いているように見える)切手も出ておりファンは狂喜乱舞。 (残念ながらレティンキュラー切手は上手くスキャンできないので不掲載><b)

 一方アメリカの方は、本場でありながらなぜか著作権の問題があったようで(アメリカで許可が下りないとはおもえないのですが。。。)、象徴的なアイコンの4切手を発行。(デザインした方もかなりのファンのようでw) それでも宇宙艦隊の記章やバルカン人の挨拶「長寿と繁栄を」など渋いチョイスとなっており、ファンの心を鷲掴みにしております。

 スタートレックのファンで科学に携わっている人は結構多いようで(ホーキング博士もその一派)、どう考えてもスタートレックに影響受けてるだろうって研究(ネタを含む)に出くわす事もたまにありますw
 スタートレックの第二作The Next Generation(邦題 新スタートレック)第六シーズン第26話「ボーグ変質の謎 前編」で、同シリーズでも人気の高いデータ少佐(アンドロイド)がホロデッキでニュートン、アインシュタイン、ホーキングとポーカーに興じる(?)シーンがあるが、この時のホーキング博士はご本人。心底うらやましい限りである
 なお、自分はデータ少佐よりジャン・リュック・ピカード艦長推しである(全シリーズ通じても)


多面体定理
「レオンハルト・オイラー」 1783.9.18没 スイス発行


オイラーと公式  丁度亡くなられたのが今頃の季節だったので、今回は18世紀の大数学者レオンハルト・オイラーの業績を紹介します。

 業績と言っても山のようにありますが、切手になっているのはその内2つ。
一つ目は「オイラーの多面体定理」(右切手) 多面体の頂点の数e、辺の数k、面の数fe-k+f=2 という関係が成り立つと言う物。 直感的にも分かりやすいのでいくつかの切手や消印になってます。
 そしてもう一つは「オイラーの公式」(左切手) 指数関数と三角関数の関連を表記したもので オイラーの公式と示されます。数式では今一ピンとこないかもしれませんが図形で表現すると非常にクリアで美しく、私もこれを習った時はちょっとした感動を覚えました。 (ノーベル物理学賞を受賞したファインマンさんも「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい公式」 と絶賛しています) 小説「博士の愛した数式」(小川洋子 著)でも、この公式から導出されるオイラーの等式 e + 1 = 0 が美しく重要な式として登場している。



食物連鎖食べる方 食物連鎖食られる方
「海の食物環」 2014.11.19 英領南極発行


 一枚一枚だとなんてこともない普通の海洋生物切手ですが・・・・・連刷シートになるとこうなります

 科学切手の世界といいつつ生物のコーナーが無いのでここで紹介させていただきました。技あり一本!お見事です。物理が苦手なお友達もこれなら納得w



ES細胞ねつ造事件
「人クローンES細胞1周年」 2005.02.12 韓国発行


 STAP細胞再現できなくて残念でしたね。(マスコミのような日和見的かつ無責任な発言はしたくないのでこれ以上何も言いませんが)

 万能細胞のねつ造と言えば韓国でも黄禹錫教授によるES細胞(胚性幹細胞;平たく言えば、できたてのまだ何になるかも決まって無い細胞の核を、別物の核を入れ替えて別物の機能を持たせた細胞)事件でもありました。

 黄教授は人工授精やクローンの研究に従事していたが、2004年2月にサイエンスに体細胞由来のヒトクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)を作製することに世界で初めて成功したと論文発表し世界中を驚かせ、韓国の人々も「韓国初めての自然科学部門のノーベル賞受賞」かと色めき立ちました。その熱狂ぶりは凄まじく、黄教授の業績を表現した記念切手が丁度1年後に発行されました。

 しかし、その切手発行年の2005年末に事態は一変、ES細胞ねつ造疑惑が発覚し黄教授自身もねつ造があった事を一部認める発言があり、その後の調査によりその業績の多くが無為と報告された。(黄教授は結局韓国の学会から追放される事となった)韓国の郵政事業本部もこれを受け2006年1月11日には販売の中止と未販売分の全量回収を発表した。が、時すでに遅く相当数の切手が出回って私の手元にもあるという訳です。

 この事件での最大の罪は、ES細胞(それ自体は間違いではない)を始めとするする再生医療技術の研究の信用失墜・停滞させてしまった事であったと思います。この切手韓国の人にとっては恥と思うでしょうが、世界の研究者にとっても他山の石として忘れてはならない物となりました。



LED各色
「フラウンフォーファー研究機関50年」 1999.3.11 ドイツ発行


 2014年のノーベル物理学賞は青色発光ダイオード(LED)で日本人3名(名城大の赤崎勇終身教授、名古屋大の天野浩教授、米カリフォルニア大サンタバーバラ校の中村修二教授)が受賞しました。 それを祝して今回はLEDの切手をと言う事でこの切手を紹介させていただきます。(一番左が青色LED) この切手、発行は1999年で当時から青色LEDの発明が科学の世界で注目され続けていた事が判ります。 まぁ、ノーベル賞も当然という所ですね。

 ちなみにフラウンフォーファー研究機関はドイツの中で、マックスプランク協会が基礎研究を担っているのに対し、実用化に向けた研究を行っています。うち(産総研)はフラウンフォーファーの志向に近いです

 しかし、この切手の紹介は東大の内藤先生に先をこされてしまいました。 てかノーベル物理学賞発表の翌日じゃん!もう瞬殺です。全面降伏です。科学切手収集家としては面目次第も御座いません。orz  詳しい事は内藤先生の記事をご覧下さい。(あれ以上付け加える事はありませんので) 内藤先生は郵便学者という珍しい先生でいろいろ本も出されてます。(もっぱら郵便で歴史などを辿る本を出されています)こんな科学ネタまで即応するとは知見が広い方です。



つくばで発見
「科学切手展 in つくば」(エンドセリン) 2014.06.22使用


 手前味噌で申し訳ありません(私がデザインしました)が、郵政のホームページにも郵趣ウィークリーにも何の説明も無かった(ために郵頼しなかった方も結構いるのでは?)のでここでご紹介します。

 使用局は筑波山局で日曜日12:00〜15:00とたったの三時間!場所も筑波山のホテルなので押印者もごく限られていました。

 描かれてるのはエンドセリン1で、1988年に筑波大学の真崎知生教授(当時)の下、博士課程だった柳沢正史氏により発見されました。血管内皮細胞から出る強力な血管収縮作用を持つペプチド(短めのたんぱく質)であり、大きな血圧上昇をもたらす。(ラットの実験で「ラットは血の涙を流した」程)この報告は、科学雑誌の双璧の一つネイチャーに掲載され世界を驚かせました。

 今回つくばでの開催という事で描かせていただきました。○の中のアルファベットはアミノ酸の略号。本当は三文字表記にしたかったですが、消印のスペースの関係で断念。



早くも登場準結晶切手
「世界結晶学年」 2013.12.3 イスラエル発行


 2014年は世界結晶学年です。イスラエルからはこれに先駆けてこの切手が発行されました。

 題材は2011年のノーベル化学賞の対象となった「準結晶」です。受賞者はイスラエルのダニエル・シェヒトマン。たった二年で切手になってるのはすごいですが、確かに絶妙なタイミングです! もっと早い奴もいましたが・・・

 準結晶は結晶を定義づける並進対称性は持たないが、高い秩序性を持つ固体状態です。これは今までの結晶の定義を書き換える発見です。切手にはその典型的な例の5回対称性の準結晶(アルミニウムマンガン合金)とそのX線回折像がデザインされてます。

 世界化学年の時もそうでしたが、難しい事は抜きにしても最近のイスラエルの科学切手は綺麗で秀逸ですね。




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